藤枝焼津間軌道
明治24年−明治33年
軌道路線図と概要
[Prototype of the RailRoad]

注:軌道路線図は一部推定により記入。
1.本邦初の人車鉄道
今まで、我国最初の人車鉄道は明治28年(1895年)開業の豆相人車鉄道と言われていたが、それ以前の明治22年(1889年)頃に藤枝−焼津間に人車鉄道が存在していた事が石井研堂著「明治事物起源」下巻「人車鉄道の始」で触れられていた。しかしながら、それを証明する史料が一切見つかっていなかった。
ところが、美濃功二氏が鉄道史料第82号(鉄道史料保存会会報:1996年)の「本邦最初の人車軌道に就いて」の中で、藤枝焼津間軌道會社の明治24年(1891年)7月25日付時刻表を入手し、この軌道の存在を初めて確認すると共に当時の内務省年報報告書の「内務省功程報告」の一節から、藤枝焼津間軌道(但し木道の記述)の敷設許可が明治24年(1891年)5月である事を解明した。
そして同氏は更に「内務省土木統計」の史料とも照合して、藤枝焼津間軌道の存在を導き出した。
藤枝焼津間軌道は、官設鉄道(東海道鉄道:現東海道本線)焼津駅から瀬戸川を渡り藤枝に至る藤枝焼津間軌道會社経営による人車軌道で、明治24年(1891年)7月25日に開業し明治30年(1897年)に譲渡そして明治33年(1900年)に廃止された我国最初の人車軌道である。
2.軌道路線
美濃功二氏によってその存在が明らかにされた藤枝焼津間軌道は、森信勝氏によって更に詳しく研究された。森信勝氏はその著書「静岡県鉄道興亡史」(静岡新聞社:1997年)で、当時の静岡大務新聞の記事と地元古老の聞き取り調査によって藤枝焼津間軌道の路線の全貌を解明するに至った。
藤枝焼津間軌道は明治24年(1891年)7月25日に開業し、藤枝大手を起点として藤枝街道(県道30号線)に沿って平島、保福島を経由して瀬戸川を渡り、築地、大覚寺、大村を経て終点焼津駅北口近くまで運行していた路線長約4.5kmの軌道(静岡大務新聞の記述では木道)である。そしてこの軌道は、官設鉄道(東海道鉄道)の建設時に瀬戸川の砂利を焼津まで運搬していたトロッコ軌道の跡地を利用して敷設されたものである。
3.運転と運行
更に森信勝氏はその著書の中で、地元古老からの聞き取り調査によって当時の藤枝焼津間軌道の運転と運行に関して概ね明らかにした。
それによると、車丁による手押し運転で、6人乗りの箱形の客車が使用されていた。但し瀬戸川の堤防を登る時は待機していた馬に曳かせて登坂した。貨物輸送は茶の運搬が主であった。
4.時刻表
以下に明治24年当時の時刻表を示す。
明治24年7月25日(1891年)当時の時刻表
| 発着所 | 藤枝--->焼津 |
発着所 | 焼津--->藤枝 |
| 藤 枝 | 7:42 | 10:09 | 12:00 |
13:46 | 16:11 | 19:47 |
20:50 |
焼 津 | 6:31 | 9:00 | 12:48 |
14:25 | 16:02 | 18:51 |
21:27 |
| 瀬戸川 | 7:52 | 10:19 | 12:10 |
13:56 | 16:21 | 19:57 |
21:00 |
瀬戸川 | 6:53 | 9:22 | 13:10 |
14:47 | 16:24 | 19:13 |
21:49 |
| 焼 津 | 8:07 | 10:34 | 12:25 |
14:11 | 16:36 | 20:12 |
21:15 |
藤 枝 | 7:01 | 9:30 | 13:18 |
14:55 | 16:32 | 19:21 |
21:57 |
当時の時刻表を見ると、藤枝から焼津までは25分、焼津から藤枝は30分所要していた。特に焼津到着時刻は、東海道鉄道の上り列車との接続を考慮していた。
旅客は時刻表による定期運行と臨時があったが、貨物は不定期運行であった。旅客の運賃は、藤枝−瀬戸川間、瀬戸川−焼津間それぞれ二銭であった。
5.人車木道
美濃功二氏は「内務省功程報告」から、藤枝焼津間軌道は「人車木道」と記載されていた事を指摘していたが、詳細は不明であった。
ところが森信勝氏は「木道」に関して更に調査した結果、藤枝焼津間軌道は「人車木道」であった事を結論付けた。
当時の軌道関係の他の史料を調べてみると、人車木道以外に馬車木道の記述があり、道路上に敷設された木道が存在した。
従って藤枝焼津間軌道は、内務省功程報告や静岡大務新聞に記述されている通り「木道」であった。
「木道」とは、樫の木のような堅い木製レールで、車輪と接するレール頭部に鉄板を打ち付けた物と推定され、当時の状況から判断して英国製ではなかったかと推測される。
注:19世紀初頭のイギリス、アメリカでは、レールの頭部に鉄帯を貼った木製レールが使用されていた。ストラップレール(strap rail)と言う。
This is a close-up view of strap iron-on-wood railroad track. The iron straps were short lengths of wrought iron spiked to the wooden stringers. Under heavy use, the ends of the iron straps tended to work loose and curl up, creating dangerous conditions for passengers in the wood-floored rail cars.
引用参考文献
著書引用に関して下記の方々に深謝の意を表します。
森信勝著「静岡県鉄道興亡史」(静岡新聞社 1997年)
美濃功二著「本邦最初の人車軌道に就いて」(鉄道史料第82号 1996年)
京都羅城門鉄道史料館所蔵の藤枝焼津間軌道會社時刻表