帝釈人車軌道

明治32年−明治45年

軌道路線図と概要
[Prototype of the RailRoad]
軌道路線図  明治から大正初めにかけて、現在の東京都葛飾区内の金町−柴又間に人車鉄道が存在した。「帝釈人車軌道」である。

 明治32年(1899年)に設立された帝釈人車鉄道株式会社は、同年に当時の日本鉄道(現JR常磐線)金町駅と柴又間を結ぶ約1.2kmに軌間610mmの人車鉄道を建設し、同年12月17日に運行を開始した。開業式は株主でもある題経寺で行われた。この人車鉄道は、金町駅から題経寺(帝釈天)までの参拝客の輸送が目的であった。
 なお、同社は明治40年(1907年)に社名を帝釈人車軌道株式会社に改称している。

 その後、帝釈人車軌道は明治33年(1900年)に柴又−総武鉄道(現JR総武本線)小岩駅間の延長を特許出願したが、後に出願を取り下げたため実現には至らなかった。

 帝釈人車軌道は全線専用軌道で、金町はループ線になっていて人車軌道としては珍しい複線軌道であった。停留所は金町と柴又に置かれ、事務所、改札口、車丁小屋、便所、車庫が施設されていた。

 人車(客車)は6人乗りで、長さ6尺幅4尺と長さ4.5尺幅3.8尺の二種類があったらしく、最盛期には人車64輛と保線工事用トロッコ4輛を保有していた。
 運賃は、片道5銭、往復9銭(当時、あんパン1個が1銭、牛乳1本が3銭)で、乗車券は金町行きが白、柴又行きが赤、往復が青に色分けされていた。
 この軌道では押し夫の事を「車丁」と呼んでいて、通常は一人(強風時は二人)で人車を押していた。

 営業報告書が残っている明治37年(1904年)以降を見ると高収益を上げていた。当時としては便利な交通機関として好評で、文人の尾崎紅葉や夏目漱石に愛用され、更に時の内務大臣であった原敬も好んで利用した。

営業収支の推移
期 間営業収入営業支出差 引
明治33.1.1− 6.301,459円35銭1,763円90銭-304円55銭
明治37.1.1−12.311,634円28銭1,069円00銭 565円28銭
明治38.7.1−12.311,667円86銭1,172円23銭 495円63銭
明治39.1.1− 6.301,825円44銭1,260円64銭 564円80銭
明治39.7.1−12.311,662円42銭1,305円45銭 356円97銭
明治42.1.1− 6.302,131円39銭1,511円18銭 620円21銭
明治42.7.1−12.311,880円76銭1,322円70銭 558円06銭
明治43.1.1− 6.302,005円46銭1,356円22銭 649円24銭
出典:鉄道ピクトリアル210号(1968年)の白土貞夫氏著「帝釈人車軌道」

 その後、京成電気軌道(現在の京成電鉄の前進)の進出の脅威にさらされた帝釈人車軌道は、明治45年(1912年)4月27日に軌道の特許権を京成電気軌道に譲渡し、この譲渡によって帝釈人車軌道株式会社は同年解散した。

 人車軌道を手に入れた京成電気軌道は、早速電気への動力変更を出願し併せて京成柴又と人車柴又間を延長し、そして人車の運行を廃止して大正2年(1913年)に金町まで延長し、同10月21日に電車の運行を開始した。これが現在の京成電鉄金町線の京成金町−柴又間である。

注:路線図は佐藤信之氏著「人が汽車を押した頃」より転載

人車古写真
[the PassengerWagon]

人車 人車妻面乗降口ステップに乗る車丁
(写真は葛飾区郷土と天文の博物館提供)

人車 明治33年(1900年)
柴又人車停車場風景
(写真は葛飾区郷土と天文の博物館提供)

人車 明治38年(1905年)
人車運行風景
(写真は葛飾区郷土と天文の博物館提供)

人車
柴又人車停車場より帝釈天を見る
葛飾区郷土と天文の博物館複製絵葉書(所蔵:田渕洋治)

題経寺人車木彫
[the WoodenSculpture of PassengerWagon]

境内案内図 題経寺の帝釈堂-本堂間回廊
(写真は帝釈天境内案内図看板を撮影)

人車木彫刻 回廊欄間の人車木彫
(帝釈天行人車:昭和初期の作品)

京成金町線 柴又から金町に向かう単線
(旧帝釈人車軌道跡、現京成電鉄金町線)

京成高砂-柴又間は複線だが柴又-京成金町間は単線

帝釈人車軌道ミニチュア模型展示
[the miniature model of TAISHAKU Humanpowered RailRoad]

寅さん記念館  題経寺から江戸川へと向かう江戸川堤防の畔に、平成9年11月に開館した「葛飾柴又寅さん記念館」(葛飾区観光文化センター内)がある。
 この記念館は平成15年11月に改装されたが、その時に帝釈人車軌道のミニチュア展示コーナーが新設された。
 このミニチュアは、スイッチを押すと車丁の押す人車の模型が走り出すギミックがあり、車丁の両脚が動いて如何にも人が押しているように走るのが特徴である。
 そこでホームページ「柴又界隈」から写真を転載させて頂いて御紹介する。

帝釈人車軌道ミニチュア模型
葛飾柴又寅さん記念館の帝釈人車軌道ミニチュア模型(写真は「柴又界隈」所蔵)

引用参考文献

 写真提供ならびに著書引用に関して下記の方々に深謝の意を表します。
 
 葛飾区郷土と天文の博物館編「葛飾柴又展」(1991年)と同館所蔵写真
 佐藤信之氏著「人が汽車を押した頃」(崙書房 1986年)
 白土貞夫氏著「帝釈人車軌道」(鉄道ピクトリアル210号 1968年)

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