棋士ってどこから収入を得るの? 
  


 公文式のテレビ・コマーシャルを見たことがありますよね。つい
最近までは、羽生七冠王と田中寅彦八段による軽妙なかけあい漫才
のようなコマーシャルが放映されていました。羽生七冠王が「やっ
てて良かった公文式」と言えば、田中八段が「やってりゃ良かった
公文式」と答えるCMです。

 その田中八段が道を歩いていると、よく聞かれたそうです。

「まぁ、あなた将棋がお強いんですってね。ところで、ご職業はな
にをなさっているんですか?」

 羽生七冠王の活躍のおかげでプロ棋士という職業があるのだと、
最近こそようやく世間にも知られるようになってきたわけですが、
かつてはファン以外の人々がその存在を知っているなんてことはほ
とんどなかったようです。将棋をやって遊んでいてお金をもらえる
わけがないと、思われていたんでしょうね。

 野球やサッカーにアマとプロがあるように、将棋や囲碁にもアマ
とプロの世界があります。将棋を指すことを職業とする人たちのこ
とを、「プロ棋士」と呼ぶわけです。

 ではプロ棋士はどこから収入を得ているのでしょうか? 野球や
サッカー・相撲であれば、試合を見に観戦者が押し寄せるわけです
から、その入場料が彼らの給料を支えていることはわかります。そ
れに野球などでは大手の企業自体が運営しているわけですから、選
手が高収入を得ているわけも納得できます。テニスであれば大会ご
との賞金が主な収入源なのでしょう。

 でも将棋は? 最近ではプロ棋士同士の対局を観戦者注視のもと
で行う公開対局も増えてきましたが、基本的には将棋の対局は密室
で行われます。対局者が盤に集中できるように、関係者以外の立入
りは厳しく制限されるんです。観戦者がいないところで戦われるこ
とのほうが圧倒的に多いのが将棋の世界ーー、観戦料なんてものは
まず見込めません。

 種を明かせば棋士の収入を支えているものは、各タイトル戦や棋
戦を主催している企業(ほとんどが新聞社)から出る対局料です。

 新聞の片隅には、毎日将棋や囲碁のコーナーが掲載されています
よね。プロ棋士の対局は棋譜(▲7六歩・▽3四歩という具合に指
した手を初めから終わりまで記録したもの)として残されますが、
それが何日かに分かれ解説つきで新聞紙上に掲載されるわけです。
もちろんすべての対局が掲載されるわけではありませんが、単純に
考えれば棋譜を売ってお金にしていると言えるでしょう。

 その他タイトル戦によっては、上位に食い込めば別に賞金が出る
ものもあります。このあたりはテニスの大会の賞金と似ています。

 これらに加えテレビ番組での解説料・講演料・大会審判料なども
別途収入になります。

 棋士一人ひとりの毎月の給料を分配するのは、社団法人「日本将
棋連盟」の仕事です。棋士が集まり、純粋に棋士自身が運営してい
る法人です。

 実はそれが他のプロ団体と大きく異なる点です。普通は経営の専
門家なり広報活動のプロなりが組織に入り、運営に当たることが多
いのですが、将棋連盟はかたくなに棋士自身による運営にこだわっ
てきました。

 そのことがショービジネスとは無縁な「日本文化としての将棋」
を守ってきたことは事実です。しかしその反面で、外部からはわか
りにくい閉鎖された村社会を創ってしまったこともたしかでしょう。


 将棋連盟が棋士に支払う給料は大きく二つに分けることができま
す。基本給と歩合給です。このあたりの感覚は営業のサラリーマン
と似ていなくもありません。

 まず歩合給ですが、これは各棋戦(順位戦は除く)の対局料が主
になります。一局の将棋を指してどれだけの報酬があるのかは、棋
戦ごと異なります。その金額を公表している棋戦もあれば、してい
ない棋戦もあります。相場は一局当たり、2万円から30万円と言
われています。

 つまり対局数が多ければ多いほど、棋士の収入は増すわけです。
かといって「今月はラスベガスですっちゃって生活が苦しいからた
くさん対局を回してくれ」というわけにはいきません。棋士が自由
に対局数を組めるわけではありません。

 まして野球のように年間130試合とか、対局数が決まっている
わけではありません。将棋に強ければ対局数は増す。弱ければ減る。
これが棋士の世界です。

 なぜなら各棋戦のほとんどはトーナメント戦だからです。勝てば
当然次の対局が約束されるわけですが、負けたらそこまでです。負
けた棋戦ではもう来年まで出番はありません。

 各棋戦の上位に進むごとに、対局数も増えていくわけです。そう
して棋戦に優勝したり、タイトル戦の挑戦者の座を射止めると、さ
らに賞金が渡されることになります。

 さて基本給ですが、こちらは対局数となんの関係もありません。
一カ月にひとつも対局がなくても、十局指そうとも、支給される額
は同じです。でも基本給をもらう以上は毎日出勤しているのかとい
えば、そんなことはありません。棋士は基本的に、対局のない日は
なんの拘束もされません。だから、自由業なのです。

 問題は基本給の決め方です。一般の会社のように上司が査定する
なんてことはありません。年功序列でベテランになるほど高給取り
になるわけでもありません。これも実力のみです。誰もが納得でき
る形で決めています。(もっとも最近は改正案も出されてますが・・・)
 順位戦の所属クラスにより、決められているんです。棋士は全員
(フリークラスは除く)順位戦への参加を義務付けられています。
名人を頂点に、Aクラス、B1クラス、B2・C1・C2まで五つ
のクラスのどこかに在籍していることになります。

 各クラスごとリーグ戦が行われ、決められた枠分の昇級と降級が
行われます。強ければ自然に上のクラスへと上がっていくことにな
ります。

 ちなみに各クラスごとの月額手当てですが、1994年度の平均
は、名人が106万円、Aクラスで65万弱、B1で49万弱、B
2で32万弱、C1が21万弱、C2で16万弱、フリークラスで
支給なしとなっています。(島朗著「将棋界が分かる本」より引用)

 実際にはどのクラスに在籍しているかによって、指導対局料や解
説料なども大きく変わることになるわけで、棋士にとって順位戦は
死活に関わる対局となるわけです。

 この基本給と歩合給を併せたものが棋士の毎月の収入です。年間
で見れば、さらにボーナスもあります。盆暮の二回、基本給の二ヶ
月分が支給されます。以前は夏のボーナスのことを「氷代」、冬の
それを「餅代」と呼んでいたそうです。

 実際にはこのほかに道場での指導料や、連盟を通さないテレビ出
演・講演なども別途収入となります。

 それらを併せた棋士の平均年収は一千万を欠けるぐらいだと言わ
れています。ちなみに羽生七冠王の年収はケタ違いで、95年度は
一億円を越し話題を呼びましたね。自分の子供を棋士にしようとす
るお母さん方が増えるわけです。


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